隠し部屋の女

ミラはマベの帰りを待っていた。王都の中でも比較的静かな区域に彼の住む部屋はある。

酒好きで、王都に出てきてしばらくは歓楽街の店に間借りしていたこともあったという彼が、週末の夜でさえ人気の少ない場所に住処を選んだ理由は想像に難くない。“耳に障る”のだ。曰く「気の遠くなるような途方もない訓練と調整を重ねて」研ぎ澄まされた感覚神経がかつての自分との決別を余儀なくさせたのであろう。
独り暮らしにしてはそこそこ広い部屋のベッドでうつ伏せになり、部屋に置いてあった雑誌を眺める。ページをめくるが集中できず、気が付くと玄関のほうに目をやっていた。モノクロを基調にした室内は“札付きの狂犬”と揶揄される男の根城とは思えないほどごく普通の部屋だった。

マベと深く付き合うと、見た目からは全く想像できない几帳面な性質が浮き彫りになる。外で深酒はしても酔い潰れることはなく、家では一滴のアルコールも飲まない。粗暴な言動とは裏腹に部屋は掃除が行き届き、日々のトレーニングは絶対に欠かさない。
これもおそらく劇的に変化した体質と向き合うために己に課したルールなのだろう。初めてマベと出会ったとき「難しそうなやつが来た」と直感で思ったものだが、ある意味それは当たっていたわけだ。

そんなことを考えながらぼんやりしていたが、ふと壁にかけられた時計を見てミラは不安になった。大体これくらいと聞いていた時刻はとうに過ぎていた。軍事任務に就くマベが遅れるにしては、随分予定をオーバーしている。
何かあったのかもしれない。マベの率いる分隊は金持ち相手に闇取引を行う犯罪者集団と対峙するのが常で、様々な連中から恨みを買うからだ。
胸騒ぎが強くなってくる。徐々に心臓を掴まれるような焦燥感に深呼吸をすると、部屋の主と同じ心地よい匂いがミラの心にすうっと馴染み、幾分か不安が和らいだ。
その時、玄関の向こうから女性の明るい笑い声が聞こえてきた。それに混じって聞き慣れた男の声もする。ミラは即座にベッドから降りて立ち上がった。

……おかしい。

マベは自分がそうと決めた場所には女はおろか、他の隊員達にすら立ち入らせないのだ。
「もし俺がお前とゲラルト以外の奴をここへ連れて来たら、どこかに隠れろ。たとえお前の見知った顔でもだ。」
いつかのある日にマベはそう言って笑ったが、濃茶ののっぺりとした瞳はそれが本気であることを物語っていた。

ミラは足音を立てないよう細心の注意を払いつつ、リビングから引き込み戸で繋がった寝室へと急いだ。戸を閉める間もなく、かねてから隠れるならここと決めていた入ってすぐのクローゼットを開けると、同じような色の服が掛けられた隙間を縫うようにして大急ぎで身体を滑り込ませた。
観音開きの扉に手をかけたのとほぼ同時に玄関のドアが開く音がして、誰かが入ってきたようだった。

 

 

ミラは髪が挟まらないよう気をつけながらクローゼットを閉め、僅かな隙間に顔をくっつけるようにして外を覗き込んだ。視界は…案外悪くない。リビングの壁とフローリングに敷かれたラグ、隅の方にガラス製のローテーブルが少し見える。嬉しそうな女の声と足音が近付いてきた。

「綺麗にしてるじゃない。観葉植物は置かないの?」

「俺が植物に水やって大事に育てるタマに見えるか?」

「見えないこともないわよ。“札付きの狂犬”さんが、こんな立派なお部屋に住んでるなんて思わなかったもの」

「そうかい。そいつは嬉しいねえ」

女の姿が見えた。なかなかの高身長だ。きついウェーブのかかった長い黒髪を振るように部屋中を見回すと、中央に宝石のついた大振りの金のイヤリングが振り子時計のように揺れる。その後ろからマベがゆっくりと歩いてきて、ちょうど寝室の入り口の正面で立ち止まった。
失礼な女だなとミラは思った。二つ名はおっかなくてもマベは正真正銘、国王直属部隊の隊員だ。忙しすぎて使う暇のないお金目当てに彼らに擦り寄ってくる女はごまんといるらしいが、そういったタイプなのだろうか。

「誰もいなくても明かりはつけてるのね?」

「留守を狙われると厄介だからな」

明らかにマベより年上のくせに鼻にかかった声で媚を売る態度がミラには不快だった。
彼女は胸元が大きく開いた光沢のある鮮やかな紅色のドレスを着て、大胆なスリットからはオーバーニーのストッキングを履いた太腿が覗いている。スリットから覗く裏地は赤紫で、異国情緒のある植物模様の柄だ。
足元に目をやると、ミラが絶対選ばなさそうな派手な色のペディキュアが見えた。

「ここでトレーニングするの?私にもできるかしら」

女が部屋の隅に設置された鉄棒に近付き、足と同じ色のネイルを塗った指先を伸ばそうとした。

「触るな」

マベの低くドスの効いた声にミラは思わず首を引っ込めた。

「汗をかいた手で触るから汚れてる」

ウソだ。毎日使ってはいるが、いつもピカピカで指紋一つついていない。女はマベの言葉に何度も頷いてくだらないご機嫌取りをしている。

彼が夜の街で女を買ったのではないことはすぐにわかった。髪質も身に着けている装飾品も、クローゼットにまで漂ってくるきつい香水の匂いも「いかにもな夜の女」で、四感の鋭いマベが気に入る点が何一つ見当たらないのだ。
あれは敵の斥候だろう。マベの女好きは彼の二つ名とともに知れ渡っている。敵はわざと夜の街に女を立たせ、声をかけさせたのだ。
それにしたってもっとマベさんのこと調べなよ、とミラは呆れた。マベは女は抱くがそれは純粋な性欲からであり、一夜限りの相手に恋愛は求めないのだ。だからこそ、マベが敵の誘いに乗ったのだと気付いたのだが……。
ミラは小さく溜息を吐くと、また目を凝らした。

「…………ねえ。あなた。そろそろ…………、」

誰が“あなた”だよ。女が甘ったるい声を鼻にかけて喋るのがだんだん面白くなってきた。地声が隠しきれずところどころ語尾が掠れているのを聴覚の鋭いマベが聞き逃すはずないだろう。

「…あンだよ?」

「意地悪ね。焦らすのがお好きな狂犬さんなのかしら?ボーッと突っ立ってるのが仕事の兵隊さんじゃあないんでしょう?」

その言葉にマベが腕を振るようにしてコートを脱ぎ捨てた。その腕の逞しさと引き締まった背中から腰にかけての男らしいラインが露わになる。

「あら、そのコート…脱いじゃうのね」

女が残念そうに言った。

「また出ていかなきゃならねえからな。汚れた隊服で出たら処分モノだ」

「そう…大変ね」

「こーゆー時はよオ、女が先に脱ぐんじゃねえのか?」

大して興味なさげにマベが指摘すると、女はあら失礼と笑って長い髪をかきあげ、背中のファスナーを下ろした。
女が見せつけるようにしてドレスを床に落とすと、そう悪くはない、引き締まった身体が姿を現した。黒い光沢のある生地にレースをあしらった大胆な下着を身に着けている。マベが口笛を吹いた。

「…意外と悪くねえな」

「よかった、年増だと思われてないかと不安だったの」

女がうふふと笑って寝室へと入ってきたのでミラは緊張したが、「おい」と待ったの声がかかった。

「ベッドには触るな。俺は部屋で女とヤる時は床の上って決めてンだ」

「は?」

女が地声で聞き返した。ミラは吹き出しそうになるのを堪えた。

「女を手籠めにするヤり方が一番興奮する。下着は足首に引っ掛けろ。俺はそういうンじゃねえと勃たねえんだわ」

……大半が嘘だ。

あまりに乱暴な言いように怒ったのか女は黙ってマベを見つめていたが、その目をふっと細め、赤い唇に笑みを乗せた。

「………いいわ」

女がベッドから離れる。

ミラはほんの少し不安になった。おそらく“敵が突入する”のは“マベが女に突入しようとした時”に違いない。しかしマベは女が敵方の人間だと気が付いている。女を尋問するのだろうか。それとも―――

その時、女が動いた。

女はつかつかとローテーブルの前まで来ると、ガラス製で綺麗に磨かれたその天板にゆっくりとお尻を乗せた。ああやめなよ、とミラは思わず声を出しそうになる。

「冷たいわ、フフ……」

笑う女にマベは一言も発しない。ミラはできるだけローテーブルが見える位置まで移動すると、女は両手をテーブルに突いてさらに深く腰掛け、上体を屈めるようにして上目遣いでマベを見つめていた。

「床じゃ、ここがよく見えないでしょう…?脱いで足首に引っ掛けて見せてあげるから………ほら…………」

言いながら、太腿からショーツまで艶めかしく手先を滑らせ、端に指を引っ掛ける。少しお尻を浮かせるとローテーブルが軋んだ。
ミラは口元を手で隠しながらじっと女の動きを見つめていた。さっきそこでコーヒー飲んでお菓子食べたんだけど…いやそうじゃない。この女、空気が読めなさすぎる。
色々なものに触るな近付くなとあれだけ言われたのに、ローテーブルにお尻を、それもショーツを脱いだ生尻をつけるなんて考えられない。普通あそこまできつく言われたらマベが神経質なのか自分に気を許していないであろうことに気が付いてそんな行動は取らないだろうに。
女なりにマベの気を引こうと必死なのか、何か別の考えがあってのことなのだろうか。
ブラジャーとストッキングだけの姿になった女は、マベの指示通り足首まで下着を下ろすと器用に片足を抜き、そのまま何の躊躇いもなく股を開いた。クローゼットのほうからは全部は見えなかったが、彼女の髪と下の毛の色がまったく違うのだけはかろうじて見えた。

「さあ、見えたでしょ……?アタシが、どんなに待ち焦がれてるか…、ほら……、ねえ……、早くあなたを頂戴?」

女が手をそこに持っていった。媚を売る甘ったるい声に本気の吐息が混じる。何をしているかは大体わかったが、マベはまだ一言も発しない。
あのテーブルは取り替え時かな。ミラがそう思っていると、マベが口を動かした。

「……俺のは普通じゃねえぞ?」

「………、構わないわ……。」

「泣いて叫んでも止めねえぞ」

「構わないわ。ここまで女にさせといて……、ねぇ…、早く。アタシあなたにだったら本当に全部あげてもいいわ」

「……………」

マベがゆっくりと女に近付く。ミラは大きく目を見開いて扉に額をくっつけながらその動きを食い入るように見つめた。
マベがズボンに手を掛けながら女の股の間に割って入った。女は頬を上気させ、マベの背中に手を回す。そのまま両脚を腰に絡ませようとして、下着が引っかかったままの足をすうっと伸ばした。

と、マベが妙な動きを見せた。女は少し遅れてそれに気が付いたようで、動きを止める。

「……あ、あなた?これって―――」

声が震えている。ミラは女の素振りなどもうどうでもよく、二人の“結合部”を凝視していた。

「言ったろ。俺のは普通のじゃねえってよ」

女の股間のちょうどその部分には、鋭く光るナイフの刃先が宛てがわれていたのだ。

 

 

「ま、待って!待ってよ…!ねえ、そんな乱暴なことしないでよ!私まだ―――」

「“まだ”?何がまだなンだよ売女ァ。まさかこんな茶番ヤってまだ処女だなんて言わねえよなあ?」

マベは女の顎を掴むと指を蜘蛛のように耳へ這わせ、金のイヤリングを無理矢理引き剥がした。

「痛い!」

「わざとらしいンだよお前。普段こんなモンつけねえんだろ?自動首振り人形かと思ったぜ」

女の引き攣った顔をわざとイヤリングに向かって見せつけ、床に落とし踏みつけると何かの壊れる音がした。マベが足を退けると真ん中の部分が精密機械になっており、石の部分がちょうどレンズの形になっている。小型の監視カメラだ。

「言えよ。どこの組織だ?」

「知らないわよ!私はただ頼まれただけで…」

「誰に頼まれた」

「……それは……」

「ずいぶんと熱心にいい女を演じてたなァ?こんな安モンの道具見せられて“札付きの狂犬”を転がすのに一役買おうなんてヤツはこの界隈にゃいねえんだよ。……お前、◯◯の人間だろ。まだ王都に明るくねえうちから俺を狙ったのが運の尽きだな、ここじゃァそんな猿芝居は通用しねえと思っとけ」

組織名は女の耳元に唇を寄せ囁いたのでミラには聞こえなかった。流石にそこは抜け目がない。女は黙っていたが、陰部に宛てがわれたナイフがその角度を変えるのを見て顔色を変えた。

「話したら殺されちゃう!」

「俺に今ここォ刺されて殺されンのと、どっちがいい?」

その切っ先がほんの少し動いたように見えた。

「ひいいッ!」

女が金切り声を上げる。マベが口の端を歪めるようにして声を出して笑った。凶悪な笑い声だ。

「…イイねえ!!ソッチの声のほうがソソられるわア!!俺は猫撫で声が大嫌いなんだよ、人ン家のモン勝手にベタベタ触ろうとしやがって……。ほら、誰の指示か言えよ。こっちゃ年増の臭え◯のニオイをタダで嗅いでやってんだ。礼はいいから情報くれえ吐きやがれ、勘違い野郎のドグサレ◯◯◯が」

「なんですって」

卑猥な侮蔑の言葉に女が初めて怒りを露わにし、唇を歪ませた。

「目も見えないゴロツキのくせに。そのうち助けがやって来るわ。あんた一人じゃ太刀打ちできないくらい、腕っぷしの強い連中がね」

「へえ、そうかい。だがお前さんは失敗した。連中がここへ来たって助けちゃくれねえぜ?」

「………………。」

「もう奴等にとっちゃ何をどこまで知ってるか、どこまで俺に詰め寄れたのかは重要じゃねえんだよ。お前さんの正体がバレた以上、色仕掛けは二度と使えねえ。所詮は捨て駒さァ。奴等の考えはこうだ。“マベ・マヘスを殺るには今しかねえ。女は殺せ、そいつはお荷物だ”…ってなあ」

「………………!」

「俺達は完全にお前達を捕捉した。あいつらももう後がねえってことくらいわかったろうよ。となりゃあ、ぽっと出の田舎悪党が次に考えるのは、やけくその襲撃か、尻尾ォ巻いて愛の逃避行だろうな。……ああ、そうだ。テメェが吐いても吐かなくても、奴さんがここに来りゃァもっと良い情報源を捕まえられるッてえこった。そうなりゃ俺にとってもお前さんは……、……用無しだなァ?」

マベが喋っている途中から女が泣き出した。ナイフの切っ先が陰部の割れ目をなぞるようにして持ち上げられ、臍から谷間を通り、女の頬にピタピタと当てられた。女のひぃという情けない声に少し遅れて小さな水音が聞こえてきた。

「うわっ」

ミラは小さく声を上げた。女が失禁したのだ。

はっとしてマベのほうを見ると既に女から離れ、漏れ出した液体がガラス板を伝ってフローリングへと落ちるのを冷めた目でじっと見ていた。

「……アァ、あーあー……テメェ、ここで小便漏らすンじゃねえよクソボケが。その程度の覚悟で……」

マベは続けようとしたが、玄関の扉が無理矢理開け放たれ、武装した体格の良い男達がなだれ込んできた。女は放心状態なのかピクリとも動かなかった。

「マベ・マヘスだな?死んでもらうぞ」

男の一人が喋った。女の股の間から垂れた液体が床にゆっくりと広がっていく。マベは背を向けたまま一言も発しない。激怒を通り越して冷静になっているのだ。もう彼らの命運は決まった。
不意にマベがこちらに顔を向けた。明らかにミラのほうを見て、その唇をゆっくりと動かした。

“隠れてろ”

もちろんそのつもりだ。ミラは大きな瞳をぱちぱちと閉じてみせた。
マベが男達を振り返った、その顔は怒り狂った野犬のようだった。いかにも垢抜けないといった風体の大男達が、たったのひと睨みで怯んだのがわかった。

「……テメェら、このマベ様をナメやがって……。俺をナメてンのか、ウライオス第2部隊をナメてんのかどっちだ?一人ずつ聞いてやっから、百点満点の答えェ聞かせろよ!!ボンクラ共!!!」

 

 

ものの十数分でカタがついた。部屋の中は荒れ放題で、男達は一人残らず倒れ伏し、雑誌は散乱し家具は倒され、ソファには男が一人寄りかかったまま失神している。
最後の一人は背後からマベを襲おうとして床の液体を踏んづけ見事にそっくり返り、転がっていたデキャンタに頭をぶつけて動かなくなった。

「マベさん!」

静かになり、ミラはようやくクローゼットの扉を開けて出てくることができた。あまりの散らかりっぷりにおっとっと、と足元をふらつかせながらマベの元へと駆け寄った。

「大丈夫か?……こりゃ掃除と片付けで丸一日かかっちまうぜ。まったくよう」

ようやく穏やかな声色になりつつどこか気まずそうにミラを見つめるマベに何かを察し、ミラは目を細めて笑った。

「……大丈夫だよ」

その短い一言にマベは少し驚いたように濃茶の瞳を向けた。見つめ合うと、今の今まで敵を罵り殴り飛ばしていた大男がバツが悪そうに目を背け頬を掻いた。ミラははっとして大声を出した。

「マベさん!!」

ミラの声とほぼ同時にマベが背中を向け、叫び声を上げながらトレーニング用のダンベルを振り下ろそうとする半裸の女の腹を力一杯蹴り飛ばした。

「ギエッ」

女は短い悲鳴を上げ、くの字になって吹っ飛んだ。フローリングを鈍い音を立てて転がっていき、キッチンの床下収納に吸い込まれるように落ちていった。

「フタが開いちゃってたの!?」

「そうらしいな」

ただの床下収納ではない。床をぶち抜き、階下の隠し部屋と滑り棒で行き来できるようにしてあるのだ。

「打ち所が悪かったら死んじゃうよ」

二人で覗き込むと、女は階下のフローリングに大の字になってのびていた。
引っ掛けていたショーツはどこかへ行き、落下の衝撃でブラジャーがずれたのか乳房が丸見えになっている。

「ちょっと……おっぱい全部出てるんだけど……」

ミラが吹き出すのを我慢しながら震える指で女を差した。マベは顔を顰めて溜め息をついた。

「ブラのサイズが合ってねえと思ったンだよな…」

「最初に脱いだ時でしょ?私も同じこと思ってた。おっきく見せるならサイズだけじゃなくて靴下も詰めないとね」

「そりゃお前だろ」

呆れて笑うマベにミラもうふふ、と笑い返す。隠し部屋で気絶している女を尻目に、肉弾戦を経てどこかギラついた目をしているマベの首に腕を回した。

「ねぇ……マベさん……」

「……………」

至近距離で見つめ合う。マベの目にはミラの顔は実際には見えていない。それでも、彼女がどんな表情をして自分を見つめているのかはわかっているはずだ。

ミラは大きな瞳を細めるようにして微笑んだ。

「さっき言ってた組織の名前、教えてよ」

回された腕に優しく触れて、マベはニッと笑った。

「ダーメ」