“彼女”がその部屋を抜け出して、ほんの僅かの後。
ドアが乱暴に開け放たれると、室内のソファにひとり取り残されたとみられる乱れた着衣の男が身を震わせた。
家具や調度品が激しい音を立てて揺れるほどの荒々しい風を纏ったマベが近づいていく。
「よう兄ちゃん。精が出るねェ」
「なっ……何だ貴様は!無礼だろう!?」
「ウライオスのマベ・マヘスだ。無礼で有名なのは知ってんだろ?」
「ウライオスだと!?貴様ら私をコケにして…!!」
男が言い終わる前に、マベの鋭い拳が男の顔を打った。短い悲鳴とともに絨毯の上に倒れ込んだ男に、マベは吐き捨てるように言った。
「お前こそ人の命を何だと思ってやがんだウスノロ野郎。部下は全員始末しといたぜ。退職金払う必要がなくなってよかったなァ」
「ぜ、全員……!?あれだけの人数を、お、鬼かッ」
「そりゃ俺の上司だな」
マベの背後のドアから、同じようなコートを着た男達が部屋の中へ入ってきた。そのうちの一人が前に出て報告を始める。
「マベさん、こちらは終わりました。人質は確保および数名収容済み、招待客も順次捕縛しています」
「……ご苦労さん。逃走経路に見落としがないか気をつけろよ。行っていーぜ」
「はっ」
「おいお前達!!」
背を向け部下に指示を出すマベに息を乱した男の怒号が飛んできた。
「こ、こんなことをしてどうなるか覚えておけ!国王直属の部隊だかし、知らないが、我々の顧客には上流階級のお偉方が大勢―――」
「うっせえよ。いつまでも汚え面見せてんじゃねえぞ、え?クソ豚野郎」
ドスの効いた声に男は縮こまった。萎縮した男を見たマベはニコニコしながら片手を胸に置き、うやうやしくお辞儀をした。
「あーすいませんねェ脅かしちゃって!大変申し上げにくいのですが、そちらの抱えてらっしゃるお客の野郎はどれほど国内で地位や名誉があらせられても、もれなくみィィィィんな犯罪の片棒を担いだことになりますので!」
そこまで言うとマベは怯える男に顔を近づけ、片目を細め口端をつり上げた凶悪な笑みを浮かべた。
「………ご同行いただけますかァ?」
「………………」
黒眼鏡の奥の淀んだ瞳が有無を言わせなかった。どっちが悪人だという言葉が頭をよぎったが、男は絶句するしかなかった……