番外.平行線

ふたりは珍しく明るいうちに外を出歩いていた。
この国で最も有名な制服に身を包んだ長身の男、その横に華美な格好の女が並んで歩いていると、陽の光あふれる街の中では少々目立つ。行き過ぎる人がたまにちらりと二人へ視線を向けるのに気付かないわけではないが、二人はこういう見世物的な視線には慣れていて、何とも思わずにただ真っ直ぐ目的地へと向かっていく。

約束があったわけでもなく、これといって意味があったわけでもない。
ゲラルトが移動している道中、待ち伏せしていたかのように突然ミラが現れ、特に理由も言わないままついてきて、雑談をしているだけだった。
重要な用事がないと知ったゲラルトは、思っていたことをふと口に出す。

「お前と行動していて思うんだが」
「ん?」

思いがけずゲラルトの方から話しかけられたミラは、意外そうにその顔を見あげた。ゲラルトは歩調を落とさないまま、見あげたミラの方を少しだけ見た。

「危ない橋を渡りすぎていないか?」

ミラはますます意外そうな表情をして、かくんと首を傾げた。

「そう?ちゃんと事前情報は持ってるし、いつも成功するビジョンしか見えてないよ、私には。」

同じ狩場で仕事をする者同士、あれ以来、お互いそうとは知らずに鉢合わせることが続いた。
決断力と行動力があると言えば多少よく聞こえはするだろうか。協力関係を保留にしている以上、その必要は無いとわかっているものの、ミラがあまりにも危なっかしいことばかりをするので、ゲラルトはそれとなく助けることがしばしばあった。
しかし、今のミラの反応から察するに、本人にはまったくその自覚がないらしい。

「いや、計画が甘すぎる」
「男に媚び売れば大体どうにかできるじゃん」
「だから、それが、」

ゲラルトはうんざりしたのか、呆れたのか、思わず歩みを止めてミラの方を向いた後、ごく短く溜息をついた。助けられていることに気付けとも言わないし、ましてや感謝しろなんて言わない。ただ、わざわざ危ない橋を選んで渡りに行こうとするのはやめた方がいい。
今までたまたまどうにかなってきただけで、そうでない場合も十分に有り得るなら、不確実な手段を使うべきではない。目的を達成する確率を1%でも下げるようなことはしないゲラルトには、成功するかもしれないなら低確率でも行動してみるミラの考え方が、どうも理解できなかった。
理解できないことを否定するほど柔軟さに欠けるわけではないが、厄介なことになり、任務に支障が出るようなことはしないで欲しいというのが本音だった。

「逆に私は、何でも殺せばOKだと思ってるあんたの方が危ないと思うけど」

今度はゲラルトが首を傾げた。

「そうか?私より強い人間などそういない。成功しないビジョンは見えないが」
「わー、うっざ。うっざ。でも怪我しすぎじゃん」
「出血した方がより成功率が、」
「だから、そういうとこが……。もっと自分を大事にしなよ。」

ミラが大袈裟に肩を竦めて溜息をついた。
ミラもまた、ゲラルトのやり方を理解できないのだから、二人の考えは平行線を辿る他無い。

返事も待たないままミラは前を向き、どこへ行くわけでもなく歩き始める。雑談をやめて遠巻きに二人を見ていた見知らぬ通行人が、ふいと視線をそらしてまた雑談を始める。それに気付いたミラは、こちらに向けていた視線には大した意味はなかっただろうが、そこで行われる会話もまた、今しがた自分たちがしていたのと同じくらい無意味な会話に違いないと内心で毒づいていた。

水と油かと言うと、決してそうでは無い。二人の目的は確かに同じ地点にあって、根底には同じようなものを抱え、方法は違えどほとんど同じようなことをしているのだから。ただ、その上に乗っかっている人間性があまりにも違っていると、互いにそう認めざるを得ないほど、二人は違っている。
そこから二人は会話をするわけでもなく、しばらく同じ道をただ並行して歩いたあと、二つほど角を曲がったところでミラの姿はまたいつの間にか消えていた。